資金繰りは、一人社長をはじめとした経営者にとって大きな悩みの1つです。とくに、一人社長だと相談できる人が周りにおらず、困っている方もいるのではないでしょうか。そこで、今回は、資金繰りで生じやすい悩みや対処法に加え、資金繰りに困らないための事前対策もご紹介しています。
法人を設立したばかりの方や、キャッシュフローに頭を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
ココがポイント
一人社長は資金繰りに悩みを持ちやすい
一人社長が資金繰りに困ったときの手段をおさえる
困る前から資金繰りへの対策を検討しておこう
資金繰りとは
資金繰りとは、会社の収支を管理し、過不足を調整することであり、一人社長であれば当然社長自らがおこなうものです。
事業活動は売上をはじめとした収入、取引先への支払いや給与・設備投資などの支出を積み重ねて継続します。収入と支出のタイミングは、ずれていることがほとんどです。
そのため、短期的・長期的に、いつ・いくらの支出があるのかを把握し、その時期に手元の資金が確保できるように計画しておく、すなわち資金を繰り合わせておく必要があります。 資金は会社の血液や空気にたとえられます。資金の流れを止めないことが会社の存続や発展の鍵です。
なお、現金はもちろん、当座預金や普通預金、有価証券などは、現金化するのに時間がかからず会社の支払いにすぐ利用できるため、資金繰りに適しています。
一方、会社が所有する不動産や設備などは、売却・現金化に時間がかかるため、資産ではあっても、資金繰りに適した資金とはなりません。
一人社長がかかえる資金繰りのよくある悩み
一人社長が陥りやすい資金繰りの悩みとして、以下3点をご紹介します。
- 利益と手元の資金の差異がある
- 黒字経営にもかかわらず資金繰りが厳しい
- 個人の預貯金を使うか迷う
法人化したばかりの方や、これから会社を設立しようとしている方は、ぜひご覧ください。
利益と手元の資金の差異がある
一人社長が用いる複式簿記では、会計処理を「発生主義」の原則に従い、取引が「発生」したタイミングで収入や支出を計上します。そのため、売掛金の回収に時間がかかる場合は、会計上の利益と手元の資金が異なります。
たとえば、1月に300円の商品が売れて3月に入金されるとすると、会計上では1月に300円の収益が出ていることになりますが、実際には3月まで収入がありません。
会計上の収支と利益だけを確認していても、手元にある資金とは金額が異なってしまうのです。このため、資金の過不足を把握しづらく、一人社長の悩みの種になることも珍しくありません。
黒字経営にもかかわらず資金繰りが厳しい
帳簿上では黒字でも、資金繰りが厳しい状態だと、事業活動に支障が出てしまいます。
たとえば、商品の販売が成立(帳簿では利益計上)しても売掛金の回収(収入)までに長い時間がかかるビジネスモデルだと、その間、次の仕入れができずに事業活動が続けられず、倒産に至るリスクがあります。この場合、余分に、次の仕入れ用の資金の確保が必要です。
実際、黒字経営でも資金繰りが上手くいかず、倒産した会社は多いです。東京商工リサーチによれば、2022年(1~12月)に倒産した企業のうち、約4割が黒字倒産しています。
個人の預貯金を使うか迷う
資金繰りに困った際、個人口座にある預貯金を使うと、金融機関で融資を受けるときとは異なり、審査や金利がないため、手軽に資金を調達できます。
しかし、一人社長がプライベートのお金を何度も会社のために使っていると、金融機関からの借り入れが難しくなる可能性があります。というのも、個人の預貯金を会社に使うことで、自己資本比率が下がることから、経営不振やずさんな資金計画を疑われ、審査に不利に働くのです。
とはいえ、資金繰りに困っており、すぐにでもどうにかしたいと考えるのが経営者の本音ともいえるでしょう。
そのため、個人の預貯金を使う簡便さを取るか、金融機関からの信頼を高めることを取るか、一人社長の悩ましいところといえます。
一人社長が資金繰りに困ったときにやるべき対応
一人社長が資金繰りに困ったときに使える以下の4つの対処法をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
- 金融機関に相談する
- 取引先に相談する
- ファクタリングサービスを利用する
- 個人の預貯金を使う
金融機関に相談する
資金繰りに困ったら、まず金融機関に相談しましょう。
金融庁が令和元年11月におこなった「金融機関の取組みの評価に関する企業アンケート調査」では、メインバンクについて、経営上の課題や悩みを「よく聞いてくれる」または「ある程度聞いてくれる」と答えた中小・小規模企業が全体の8割を超えています。
日頃から会社の状況を説明し、良好な関係を築けていれば、一人社長の力になってくれるでしょう。
融資やビジネスローンはもちろん、経営上の課題を教えてもらえるなど、さまざまな支援が期待できます。
取引先に相談する
資金繰りが厳しいことが見えてきたら、取引先に相談するのも1つの手です。
販売先なら通常よりも早く売掛金の支払いをしてもらえないか、仕入れ先なら支払いを待ってもらえないか、交渉してみましょう。単に期日を変えるだけでなく、支払い方法を一括にするか、分割にするかの調整も資金繰りを改善する一助になります。
ただし、取引先にも都合があるうえに、取引条件を変えることになるので容易ではないうえ、一人社長と取引先の日頃からの人間関係が大切です。
ファクタリングサービスを利用する
ファクタリングとは、売掛金(売掛債権)をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引いた現金を得ることです。 売掛金の支払い日より早く資金を調達できるため、資金繰りの改善が見込めます。また、金融機関などからの借り入れや融資とは異なり、負債が増えません。
しかし、手数料分、受取金額が少なくなるデメリットがあります。ほかにも、ファクタリングの種類によっては取引先との関係悪化につながったりするなど、さまざまな注意点があります。
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個人の預貯金を使う
一人社長が個人の預貯金を使って会社の資金にした場合、他者との相談が不要なうえに、一人社長だけの判断で速やかに資金を調達できます。さらに、貸付金利や返済期限がありません。そのため、銀行からの融資やビジネスローンを利用したり、ファクタリングサービスを利用するよりも、迅速に資金繰りの対応ができます。
とはいえ、一人社長からの借入金が何度もおこなわれていると、金融機関で借り入れする際に、経営不振やずさんな資金計画だと判断され、審査で不利に働く可能性があることを留意しておきましょう。
一人社長が資金繰りに困らないための事前対策
一人社長の中には、資金繰りに困らないよう事前に対策を立てたい方もいるでしょう。
ここでは、以下の3つの方法ご紹介します。
- 法人保険に加入
- 経営セーフティ共済に加入
- 支払い猶予が長いクレジットカードを使う
一人社長の事前対策|法人保険に加入
法人保険とは、法人経営者向けの生命保険の総称です。基本的には、経営者が死亡したときに保険金が支払われる生命保険ですが、商品によっては解約返戻金の範囲から一定額、貸付を受けて資金繰りに利用できます。
そのため、内部留保が貯まり、急な資金調達に備える効果が期待できます。たとえば、日本生命の「ニッセイ長期定期保険」やソニー生命の法人契約専用の「バリアブルライフ」があります。
一人社長の事前対策|経営セーフティ共済に加入
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)に加入していれば取引先が倒産した際に一人社長の会社も 連鎖倒産したり、経営難に陥ったりすることを防げます。
たとえば、自社商品の取引先が倒産すると、売掛金を回収できず、資金繰りが悪化してしまいます。しかし、経営セーフティ共済に加入すると、取引先が倒産しても「回収困難となった売掛金債権等の額」か「納付された掛金総額の10倍(最高8000万円)」を速やかに借り入れでき、資金をつなげることが可能です。
ただし、起業してから1年未満の場合には利用できなかったり、契約から12カ月未満だと解約手当金が掛け捨てになったりなどの注意点があります。
一人社長の事前対策|支払い猶予が長いクレジットカードを使う
支払い猶予が長いクレジットカードを利用すれば、資金繰りがしやすくなります。
たとえば、セゾンプラチナビジネスアメックスカードです。 成人した中小規模法人の代表者が申し込めるカードで、最長84日の支払い猶予があります。ほかにも、1%のキャッシュバックに加え、最長15カ月分の利用明細をWEBで確認できるなどの特徴があります。 従業員ができた場合も100枚(代表者分を含む)までなら発行できるため、持っていると便利な1枚です。
資金繰りは対策が必要|まとめ
これから法人化して一人社長になられる方や、すでに一人社長として経営している方の中で、資金繰りに不安を感じる方もいるでしょう。
会社を経営するうえで、売上と経費をしっかりとシミュレーションし、倒産しないようにしっかりと経営基盤を整えていかなければなりません。しかし、一人社長は、フリーランスと異なる部分も多く、はじめての会社経営でわからないことも多いでしょう。
また、効率的なキャッシュフローを確立できず、資金繰りに困ることも珍しくありません。しかし、法人保険や支払い猶予が長いクレジットカードを使うなど、事前対策によって資金繰りしやすくなることもあります。
そのほか、どうしてもお金を工面しなければならないときは、ファクタリングサービスや銀行からの融資を検討するのもおすすめです。
※2023年7月1日時点の情報