個人事業主(フリーランス)が事業を法人化し、一人社長となると、納める税金の種類が変わります。そのため、法人が納める税金の額はいったいどれくらいになるのか、よくわからない人も多いでしょう。
今回は、法人が納める税金の種類や手軽に計算する方法に加え、赤字の場合に支払う税金や軽減税率、インボイス制度などを解説しています。
さらに、法人税を支払わなかった場合のペナルティや、支払いが難しい場合の対処法についても、併せて見ていきましょう。
ココがポイント
法人が税金をどれくらい払うのか把握するためには、まず3つの税金を理解する
法人の税金は「実効税率」を使うと、どれくらいの金額になるのか簡単にわかる
期限までに法人が税金を納められない場合の対処法も知っておこう
法人が納税しなければならない税金の種類
ここでは、法人が納税しなければならない税金の種類を見ていきましょう。
法人が納税しなければならない税金の種類は以下の5種類です。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 消費税及び地方消費税
法人が支払う税金のメインは3つ
法人が支払わなければならない税金のうち、主な税金となるのが「法人税」「法人住民税」「法人事業税」の3つです。
法人がどれくらい税金を支払うか把握するために、まずは法人にかかるメインの税金とその内容を見ていきましょう。
①法人税
法人税とは、法人の利益(所得)に対してかかる国税です。課税所得が0円以下(赤字)であれば、納税の必要はありません。
適用される税率は、法人の種類や資本金の額、事業年度、所得額などによって決まります。
令和4年4月1日以降の事業年度で、一人社長が該当する中小法人の場合、法人税の税率は年800万円以下の所得に対して15%、800万円を超える部分に対しては23.20%です。
法人税額を算出するには以下の計算式を使います。
メモ
法人税額=課税所得×法人税の税率-税額控除額
②法人住民税
法人住民税とは、事務所などを登記している地方自治体に対して納める税金で、都道府県および市町村に支払います。算出方法は以下2種類あり、税率は自治体で異なります。
- 均等割…資本金などの額、従業員数に応じて算出。赤字であっても支払う
- 法人税割…法人税額に応じて算出
法人化していない個人事業主は所得がない(赤字)年に住民税は発生しませんが、一人社長として事業を法人化すると、所得に関係なく、赤字でも法人住民税が発生することをおさえておきましょう。
③法人事業税
法人事業税とは、法人が営む事業に対してかかる地方税です。道路や上下水道など、事業をおこなう際に利用している行政サービスの経費を一部負担する目的があり、都道府県に納めます。
法人事業税は、業種や従業員数によって以下4つの方法で算出します。
- 付加価値割…各事業年度の付加価値額を元に計算
- 資本割…資本金などの額を元に計算
- 所得割…各事業年度の所得を元に計算
- 収入割…電気供給業者やガス供給会社、保険会社などに対して事業年度の収入を元に計算
一人社長の多くが該当する資本金1億円以下の普通法人の場合、課される法人事業税は所得割のみです。
法人がどれくらい税金を負担するかは実効税率で計算できる
法人がどれくらい税金を負担するのか概算で出したい場合は、「実効税率」を使うと便利です。具体的には、税引き前当期純利益×実効税率(30%)+7万円で、法人の利益(所得)に対する大まかな納税額をつかめます。
法人の利益にかかる税金1つひとつの仕組みを理解しなくても納税額の概算を出すことができるので、事業を法人化し、一人社長になることを検討している人は、簡易シミュレーションに活用しましょう。
なお、税引き前当期純利益とは、売上から、原価、販売費などを引いた利益に、さらに本業外で生じた臨時の収益や損失まで加味した利益の呼び方で、法人税などの計算基準となるものです。
この計算式で出せる納税額は、法人の所得にかかる税金のみです。消費税や固定資産税など、所得以外にかかる税金は算出できないことを理解しておきましょう。
そもそも実効税率ってなに?
実効税率とは、法人が利益に対して負担するさまざまな税金をまとめ、利益に対してどのくらいの割合になるのかを計算した合計税率のようなものです。
法人が納める税金の種類はさまざまで、資本金や事業規模、地域などによって、また、法人の経営方針によっても、納税額と実効税率は変わってきます。
各法人は、自らの実効税率をそれぞれの納税額をもとに計算することで、節税や経営判断に活用しています。
参考まで、実効税率は、以下の計算式で導けます。
メモ
実行税率={法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率+特別法人事業税率}(1+事業税率+特別法人事業税率)
これから法人化・一人社長になることを検討しているフリーランスの場合は、実効税率を30%と仮定して税金負担額の目安をつかむとよいでしょう。
法人の税金がどれくらいか利益ごとにシミュレーション
実効税率を使うことで、法人の税金がどれくらいになるのか、おおまかな納税額を計算できます。
一方で、今後事業を育てていくにあたり、どれくらいの利益を出したら、税金がいくらくらいになるのか、かんたんに目安を知りたい方もいるでしょう。
ここでは、法人の税金がどれくらいかかるのかを利益の規模別に紹介します。
【前提条件】
- 法人区分:普通法人
- 資本金:300万円
- 事業開始年度:令和3年
- 損金:50万円
利益:300万円
利益が300万円の場合、法人が支払う税金の目安は82万円です。
メモ
課税所得…益金(300万円)-損金(50万円)=250万円
法人の納税額…税引き前当期純利益(250万円)×実効税率(30%)+7万円=82万円
利益:500万円
利益が500万円の場合、法人が支払う税金の目安は142万円です。
メモ
課税所得…益金(500万円)-損金(50万円)=450万円
法人の納税額…税引き前当期純利益(450万円)×実効税率(30%)+7万円=142万円
利益:800万円
利益が800万円の場合、法人が支払う税金の目安は232万円です。
メモ
課税所得…益金(800万円)-損金(50万円)=750万円
法人の納税額…税引き前当期純利益(750万円)×実効税率(30%)+7万円=232万円
利益:1000万円
利益が1,000万円の場合、法人にかかる税金の目安は292万円です。
メモ
課税所得…益金(1,000万円)-損金(50万円)=950万円
法人の納税額…税引き前当期純利益(950万円)×実効税率(30%)+7万円=292万円
法人の利益が赤字の場合はどれくらいの税金がかかる?
赤字の場合、所得は0円なので、所得に対して課される法人税などの税金は免除されます。しかし、所得に関係なく課される税金は赤字でも納めなければなりません。
たとえば、東京都23区に事務所をかまえる一人社長の場合、赤字でも、法人住民税の均等割・7万円は税金を納める必要があります。
なお、赤字の部分は「繰越欠損金」にできます。繰越欠損金とは、赤字部分(欠損金)を翌期以降に繰り越したものです。所得が黒字になった事業年度と相殺することで、その事業年度の課税所得を抑えられます。
たとえば、当事業年度の所得金額が-200万円で、翌事業年度の所得金額が500万円だとします。繰越欠損金を利用することで、翌事業年度の所得金額を500万円-200万円=300万円とすることができます。
法人の税金を抑えられる軽減税率とは
一人社長の多くは、中小法人です。中小法人の場合、「中小法人等の法人税率の特例」により、所得800万円以下の部分については、法人税の税率が19%になる軽減措置があります。さらに、令和7年3月31日までに開始する各事業年度については、租税特別措置の延長に伴い、税率15%の適用となります。
ここでいう中小法人とは、以下の条件を満たした事業者です。
- 資本金が1億円以下
- 資本金が5億円以上の法人などの間に完全支配関係がない
インボイス制度で法人が負担する税金は増える?
2023年10月1日からインボイス制度が始まると、法人が収める税金のうち、消費税の負担額が増える可能性があります。
法人の節税に大切な役割を果たしている「仕入れ額控除」の要件が厳しくなり、仕入れ先から「インボイス(適格請求書)」を発行してもらうことが必要となるためです。インボイスを発行できない仕入れ先との取引は控除が使えなくなり、結果、法人の消費税の負担額が増すことになります。
インボイスを発行できるのは、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録をした事業者です。しかし、これまで消費税の納税義務を免除されてきた課税売上1,000万円未満の免税事業者がインボイス発行事業者の登録をすると、課税売上高に関係なく、消費税の納税義務がある「課税事業者」になってしまいます。
このため、インボイス登録をためらう小規模な売り上げのフリーランスや中小企業は多く存在します。
一人社長のほとんどは、消費税の課税事業者ですから、今後は、仕入れ先の選定や継続の検討時に、仕入れ先がインボイス登録をしているかどうかは、検討ポイントの1つとなります。
ただし、強引な取引打ち切りや消費税額相当の値下げ要求は、独占禁止法などに抵触する恐れもありますので、注意が必要です。
法人の税金を支払わないとどうなる?
法人は、適切に計算した税金を支払い期日までに納税する義務があります。支払い期日を過ぎたり、納税額が誤っていたりするとペナルティを受けるため注意してください。
ここでは、法人が税金を適切に納めなかった場合に課される税金の内容や出来事、会社に及ぼす悪影響などを解説します。
延滞税がかかる
延滞税とは、納付期限までに支払わなかった場合にかかる税金です。
延滞税が課された場合には、本来支払うべきだった税金額に延滞税を加算した金額を納めなければなりません。金額は、法定納期限(法律によって定められた期限)の翌日から完納する日までの日数に応じて課されます。
なお、延滞税の税率は、法定納期限から2か月を過ぎた日を境に大きくなります。たとえば令和5年分については、期限から2か月以内に納付できれば年2.4%、2か月を過ぎた期間は年8.7%を加算した額を本来の税金額に上乗せして支払わなければなりません。
加算税がかかる
加算税とは、法人税など自ら期限内に申告する税金の内容に不備があった場合に課されるペナルティです。たとえば、役員報酬から源泉徴収された所得税を期日までに支払わなかった場合は「不納付加算税」の対象となります。
納税額の10%(納税の告知を予知しない法定納期限の場合は5%)を追加で納めなければなりません。
ほかにも、加算税には、無申告加算税・過少申告加算税・重加算税があります。
差し押さえ
納期限を過ぎても未納の状態が続いている場合、税務署から督促状が届きます。そして、督促状の発行後10日以内にすべての税金を納めなければ、不動産や預金、自動車などの差し押さえがおこなわれます。
生命維持に必要なものは差し押さえされないものの、銀行口座が凍結されるなどすれば、取引先への振込みなどができなくなります。会社としての信用を失い、その後の取引に悪影響を及ぼしかねません。
法人の税金を支払えないときはどうする?
一人社長が会社を経営していると、資金繰りが上手くいかず、納期限までに納税資金を用意できない場合もあるでしょう。
ここでは、期限内での納税が難しいことがわかった場合にできる対処法を5つご紹介します。
税務署に相談する
税金の支払いが難しいとわかったら、まずは税務署に相談しましょう。
たとえば、法人税の場合、以下2つの猶予が認められる場合があり、猶予が認められた期間中の延滞税が軽減または免除されます。
- 納税の猶予…法人税の支払いを猶予
- 換値の猶予…差し押さえられた財産の売却を猶予
なお、いずれの猶予も、期限は1年の範囲内です。この猶予期間を有効に使い、資金繰りに努めましょう。
ファクタリングを活用する
ファクタリングとは、売掛債権(売掛金)をファクタリング会社に買い取ってもらい、手数料を引いた分の現金を得る、資金調達法です。売掛債権とは、商品やサービスの代金を後から請求できる権利を指します。
ファクタリングを利用すれば、取引先からの支払いよりも早く現金を用意できるため、差し迫った税金の支払いなどに充てられます。
銀行から融資を受ける
税金を納める時期にたまたま資金繰りがうまくいかず、数か月で資金繰りが良くなることがわかっている場合には、取引実績のある銀行に短期の融資を受けられないか相談してみるのも1つの手です。
納税資金を目的とした借り入れができる可能性があります。
クレジットカードで支払う
税金をクレジットカードで支払えば、引き落しまでに時間があるため、手元に現金がなくても納税できます。また、法定納期限にカードで支払い手続きが完了していれば、カードの引き落とし日が法定納期限よりあとだとしても、延滞税が発生しないというメリットもあります。
さらに、カード会社によっては、一括払いだけではなく、リボ払いに変更できることがあります。ただし、クレジットカードで納税すると、納付税額に応じて手数料がかかるほか、分割払いにした場合はその分の利息がかかることに気をつけましょう。
社長からの借り入れ金を利用する
一人社長個人の預貯金から法人が借り入れをおこなうと、他者と相談することなく速やかに資金調達できます。そのため、税金の支払期日が差し迫っている場合の納税資金として、利用しやすい手段です。
しかし、一人社長からの借り入れを何度もおこなうと、金融機関で融資を受ける際に経営不振やずさんな資金計画だと見なされ、審査で不利に働く可能性があります。注意しましょう。
まとめ|法人の税金がどれくらいかかるか事前にシミュレーションすることが大切!
法人が支払わなければならない税金は主に5種類あり、一人社長がメインとして支払うのは「法人税」「法人住民税」「法人事業税」の3種類がメインとなります。
ただし、売上金額やインボイス登録の有無によって、免税事業者ではなく課税事業者となり、「消費税及び地方消費税」を納税しなければならないこともあるでしょう。
一人社長にとって税金を支払うことは大きな負担になってしまいます。しかし、税金を支払わなければ、財産の差し押さえや加算税、延滞税などのペナルティが課せられてしまいます。
税金の未払いを防ぐためにも、事前に税務署に相談をしたり、ファクタリングサービスや融資の利用を検討したりしましょう。