会社員からフリーランスになると、年金が切り替わります。年金に関する手続きが何かあったことは覚えていても、 具体的な違いや 対策をよく知らない人が多い のではないでしょうか。
そこで今回は、フリーランスと会社員の年金支払額・受給額をまとめました。併せて老後資金を増やす方法もご紹介しています。
会社員からフリーランスになったものの、老後の資金対策に不安がある 方は、参考にしてください。
ココがポイント
フリーランスは年金の支払い(納付)額が少ない
フリーランスは年金の受取額も少なくなる
老後の生活に備え、フリーランスも年金の上乗せを検討しよう
フリーランスになったら国民年金に切り替わる
会社員からフリーランスになると、 年金が厚生年金から国民年金へ切り替わります。
日本の公的年金制度は、基礎年金の国民年金と、基礎年金に上乗せされる厚生年金の2階建ての構造をしています。国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての方に加入義務があり、厚生年金は会社員などが加入する上乗せの公的年金です。よって、会社員からフリーランスになると、2階建てだった厚生年金がなくなり、1階部分の国民年金のみを継続することになります。
厚生年金保険は継続できないため、厚生年金からの脱会手続きおよび国民年金への加入手続きをおこなう必要があります。
フリーランスと会社員の年金支払額の違い
フリーランスも会社員も、毎月、所得から年金の支払い(納付)をします。天引きだった会社員時代と異なり、フリーランスは自ら納めるようになるため、その金額を意識するようになった方もいるでしょう。ここでは、毎月の収入が同じ20万円のフリーランスと会社員で、年金の支払い額を比べてみましょう。
フリーランス年金支払い額
フリーランスは国民年金の保険料のみを支払います。この保険料は収入額に関わらず同じ額で、令和5年度(令和5年4月~令和6年3月まで)の支払い額は、月額16,520円です。
毎月の収入が20万円の人も、100万円の人も同じ16,520円を納めます。つまり、収入額が高いフリーランスには保険料の負担感が少なく済みますが、収入額が低いフリーランスには負担感が大きくなります。
100万円の月収があれば、保険料は収入の60分の1ですが、月収が20万円しかないと、保険料は収入の12分の1です。ただし、前年の所得が一定以下だったり、失業したりした場合などには、申請して保険料の免除または猶予を受けられる可能性があります。
会社員の年金支払い額
会社員が月々支払う厚生年金の保険料は、報酬月額(標準報酬月額)で決まります。
報酬月額(標準報酬月額)とは、毎月の給料などの報酬の月額を、区切りのよい幅で区分した金額です。全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」によると、報酬月額20万円の会社員が天引きされる年金支払い額は18,300円です*。
この支払いに加えて、雇用する会社も別途18,300円を支払い、合計36,600円が厚生年金の保険料として納められています。この厚生年金の保険料支払いの中に、年金の1階部分、国民年金の支払いも含まれています。
*全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」より
フリーランスと会社員の年金受給額の違い
フリーランスの年金受給額は、会社員と比較して少なくなります。 厚生年金保険に加入できないため、会社員と比べて、現役時代に納付した年金保険料が少ないからです。
ここでは、フリーランスと会社員が月々にもらえる年金受給額を具体的にご紹介します。
フリーランスの年金受給額
フリーランスが加入する国民年金の 年金受給額は、国民年金保険料を支払った期間で決まります。
厚生労働省年金局が公表している「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、令和3年度、受給資格期間が25年以上の人が受け取る老齢基礎年金の平均年金月額は56,368円でした。
受給資格期間とは、国民年金の保険料を納めた期間や、免除された期間、会社員として厚生年金の保険料を納めた期間などを合計した期間のことです。
なお、フリーランスになる前に、会社員時代に支払った厚生年金の保険料と期間があれば、その支払額と期間に応じた額の老齢厚生年金も上乗せして貰えます。
会社員の年金受給額
会社員は、国民年金に上乗せされる厚生年金の対象者です。給与から国民年金の分も含めた比較的高額の保険料を会社と折半して支払っているため、老後、月々の受給額はフリーランスより高くなります。
これも、厚生労働省年金局が公表している「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」 によれば、令和3年度、厚生年金保険(第1号)受給者の老齢年金 平均月額受給額は145,665円でした*。
会社員期間がなく、ずっとフリーランスだった方の 国民年金の老齢給付(受給資格期間25年以上の場合)と比べると、約2.5倍も多いことがわかります。
会社員からフリーランスになっても、会社員時代に支払っていた厚生年金保険料は反映されますが、ずっと会社員だった人よりは受け取れる金額が少なくなります。
*厚生労働省年金局「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」 より
フリーランスがもらえる年金を増やす方法とは
フリーランスでも、国民年金に加えて公的な制度を利用することで、老後、年金の受給額を増やすことが可能です。
代表的な方法に、国民年金基金、iDeco(個人型確定拠出年金)、付加年金があります。別の手段として、事業を法人化し、自分を厚生年金に加入させる、小規模企業共済を利用するなどの選択肢もあります。
国民年金基金を使う
国民年金基金とは、20歳以上60歳未満の自営業者やフリーランスなど(第1号被保険者) が老齢基礎年金に上乗せ するための公的な個人年金制度で、65歳から一生涯年金を受け取れる終身年金が基本です。
掛金は全額が社会保険料控除の対象で、受け取る年金も公的年金等控除の対象になるため、節税が期待できます。加入時の年齢、性別と選択した給付の型で1口あたりの掛け金が決まります。給付の型や、何口掛けるかは加入後でも見直し可能です。
ただし、掛金の拠出限度額は、確定拠出金の掛金と合計して月額68,000円です。また、付加年金との併用はできません。受け取る年金に物価スライド(増額や減額)がないことも理解しておきましょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用する
iDeCo(イデコ)とは、自分で拠出した掛金を自分で運用して資産を形成する私的年金制度です。
掛け金は全額「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、運用益も非課税です。 老後、一時金として受給する場合は退職所得控除、年金として受給する場合 は公的年金控除の対象 となるため、節税効果が期待できます。
また、掛金の拠出限度額は、フリーランスだと国民年金基金の掛金または国民年金の付加保険料と合算して月額68,000円です。なお、iDeCo(イデコ)の金融商品には元本確保型もあるものの、投資信託などの商品の場合は元本割れする可能性があります。リスクを理解して利用することが大切です。
付加年金を活用する
付加年金とは、フリーランスなどの第1号被保険者が、国民年金に保険料を上乗せして支払い、老齢基礎年金に金額を上乗せして 受給できる終身の年金制度です。毎月の国民年金の保険料に400円をプラスした金額を納めることによって、将来、国民年金に付加年金を加えた金額を受け取れます。
もらえる付加年金の年金額は、付加保険料を支払った月数×200円です。2年以上付加年金を受け取ると、納めた付加保険料以上の受取額となり、元が取れるといえます。申し込みは住んでいる市区町村役場からでき、申し込んだ月から付加 保険料の納付が始まります。
なお、付加年金は定額のため、受け取る年金に物価スライド( 増額や減額)はありません。また、付加 年金と国民年金基金の両方に加入することはできないため、注意が必要です。
法人化して社会保険に加入
フリーランスが法人化するというのは、自分で設立した会社の法人登記をおこなって法人格を得て、その会社の一人社長になることです。
法人化すると、社会保険に加入しなければならないため、年金も国民年金ではなく、厚生年金に加入することになります。また、会社として自分を雇う形になるため、厚生年金の保険料を会社が半額を納付し、会社から給与を支払われた自分も厚生年金の半額を納付することになります。
したがって、法人化する前より保険料の負担は重くなります。しかし、老後に受け取る年金額は、国民年金に厚生年金を加えた手厚い額になります。
小規模企業共済で退職金を受け取る
小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者、役員などの積み立てによる退職金制度です。終身年金制度ではありませんが、老後資金 対策として効果的です。国の機関である中小機構が運営しており、2022年3月の時点で、全国で約159万人が加入しています。
月々の掛金は1,000~70,000円まで500円単位で自由に選択でき、加入後の増額・減額もできます。また、前納すれば、一定割合の前納減額金を受け取ることが可能です。
掛金は全額を所得控除できるため、高い節税効果があります。共済金は退職・廃業時に以下の方法から選んで受け取ります。
- 一括
- 分割
- 一括と分割の併用
分割して受け取る場合は公的年金等の雑所得 、一括で受け取る場合は退職所得扱いです。
それぞれ、 公的年金等控除、退職所得控除の対象となり、節税効果が期待できます。
まとめ
会社員からフリーランスになると、厚生年金から国民年金に切り替わるので、将来もらえる年金が少なくなってしまうと不安になっている方もいるでしょう。たしかに、国民年金だけだと、厚生年金が掛けられている会社員よりも年金受給額は減ってしまいます。
しかし、iDeCo(個人型確定拠出年金)や国民年金基金などを活用することで、将来受給できる年金額を増やすことが可能です。
将来的な不安をかかえないためにも、早い段階から年金や老後資金の対策を検討しましょう。
※2023年7月1日時点の情報