フリーランスや個人事業主として活動しており、法人化するタイミングについて、悩んでいる方もいるでしょう。
フリーランスが法人化することで、保険や税金など、適用される制度が変わります。さらに、「会社法」という枠組みが軸となることから、社会的な責任が明確化されるともいえるでしょう。
とはいえ、フリーランスが法人化することで、さまざまなメリットがあります。そこで、今回は、フリーランスや個人事業主、法人の違いに加え、法人化のタイミングを解説します。
さらに、法人化するメリットやデメリットも併せて見ていきましょう。
ココがポイント
フリーランスが法人化すると社会保険に加入できる
フリーランスが法人化することで節税効果を期待できる
法人化のタイミングを見極めるのが大切
フリーランス、個人事業主、法人の違い
ここでは、フリーランス、個人事業主、法人はどのように分類されているのか詳しく見ていきましょう。
フリーランスとは
フリーランスとは企業や団体、個人などに雇用されじ、自分のスキルを活かして仕事を受注する「働き方」を指します。主にカメラマンやライター、デザイナー、プログラマーなどの職種に多い働き方です。企業に雇用されていないため「労働基準法」などの労働法規が適用されないことから、労働環境の整備は自己責任ですすめなければなりません。
個人事業主とは
「働き方」を表すフリーランスと違い、個人事業主は「税法上の区分」という解釈があります。
個人事業主とは、法人を設立せず税務署に開業届を出した上で、個人で事業を営む人を指します。フリーランスとの大きな違いは、税務署に開業届を提出しているかどうかです。
フリーランスは、開業届を提出しなくても活動できますが、個人事業主は開業届を出さないと個人事業主として活動できません。
なお、個人事業主の場合、開業に関する費用が必要ないので、気軽に開業できるのが特徴です。さらに、青色申告承認申請書を税務署に提出することで、確定申告の際に青色申告を利用でき、控除額がとして計上できます。
法人とは
法人とは法律により人間とは別に権利義務を認められた存在を指し、さまざまな種類があります。
株式会社
株式会社は株式を発行して資金を集め、事業を行う法人です。
- 出資者である株主から経営を委託された者が取締役となって事業を行う
- 経営者自ら出資して、1人株主となる
どちらでも設立可能で、公証人の認証を得てから登記完了までに3週間程度を要します。
合同会社
合同会社は2006年に施行された新会社法で導入された組織形態です。株式会社に比べて手続きが簡単なうえ、法定費用を抑えて設立できます。また、株式会社と異なり出資者自身が業務執行権限を持ち、会社の業務を行うのが特徴です。
なお、代表的な合同会社には、「Apple」「Google」「Amazon Japan」などの大企業が挙げられます。
合資会社
合資会社は、無限責任社員と有限責任社員から成る会社です。
社員の種類 | 責任の範囲 |
無限責任社員 | 会社の債務に対し、全責任を負う(会社に損失が発生した場合、私財を使って返済する義務を負う) |
有限責任社員 | 出資した金額の範囲で責任を負う |
合名会社
合名会社は、無限責任社員のみで構成された会社組織です。会社の負債を自身の資産を使ってでも負担する社員が集まっているため、複数人の個人事業主が集まって成り立っているともいえるでしょう。
2006年の会社法改正によって、設立な必要な無限責任社員が2名から1名に変わったことで、設立のハードルが低くなりました。家族や親戚、信頼できる知人館での少人数経営に向いている会社形態といえるでしょう。
フリーランスが法人設立する5つのメリット
フリーランスが法人化することで次の5つのメリットがあります。
- 有限責任にできる
- 社会保険に加入できる
- 法人保険に加入できる
- 節税効果が高まる可能性がある
- 社会的信用を得られやすくなる
ここでは、フリーランスが法人設立するメリットを詳しく見ていきましょう。
1.有限責任にできる
フリーランスが法人化することで、業務上の負債を有限責任にできます。
フリーランスの場合、発生したすべての負債を個人が返済しなければならないのが一般的です。たとえば、仕入先への未払金や金融機関などからの借入金、滞納している税金は、個人資産から返済しなくてはなりません。
一方、法人の場合は出資金の範囲内で責任が生じるため、法人が破綻しても、個人に返済義務はなく、個人資産の差し押さえを受けるリスクはほとんどありません。
2.社会保険に加入できる
フリーランスや個人事業主は、厚生年金や社会保険に加入することができないのが一般的で、国民保険や国民年金に加入します。そのため、厚生年金に加入している人と比べると、老後に受け取れる年金額が少なくなります。
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一方、法人化することで、会社員と同じように厚生年金保険と健康保険に加入できるので、老後に受け取る年金額がフリーランスよりも増えるのがメリットです。
3.法人保険に加入できる
フリーランスが法人化することで、法人名義で生命保険に加入できるようになります。法人保険に加入することで、一定の保険料内であれば、全額を経費に算入することが認められており、当該年度における節税効果を期待できます。
また、法人保険の種類によっては、解約返戻率が高いものや、投資信託にように運用できるものがあり、内部留保を貯められます。
法人保険は任意での加入ですが、加入することで以下のメリットが得られます。
- 法人保険料を損金として計上できるので節税ができる
- 独自の福利厚生として求人でアピールができる
- 万が一の場合経営者が死亡してしまった場合にも備えられるので安心
- 内部留保を増やせる
4.節税効果が高まる可能性がある
フリーランスが法人化することで、経費として認められる項目の幅が広がることから、節税効果が高まる可能性があります。
フリーランスの場合は、売上から経費を差し引いた所得がすべて課税対象となります。そのため、所得が多ければ多いほど、個人が使えるお金が増えるものの、その分納税しなければならない金額が高額になってしまうのです。
しかし、法人であれば、役員報酬や出張旅費を経費に計上できるので、法人所得を抑えられることから、法人税を節税できます。
5.社会的信用を得られやすくなる
フリーランスが法人を設立することで、社会的信用を得られやすくなるものメリットのひとつです。
銀行から融資を受けるときは、フリーランスよりも法人のほうが審査ハードルが低いといわれており、融資を受けやすいでしょう。さらに、法人を対象にした融資やビジネスローンなどが用意されているので、資金調達の選択肢が広がるのも法人化のメリットといえます。
そのほか、取引先によっては、法人としか取引しないといった企業もあることから、日本では法人のほうが社会的信用が高いといえるでしょう。
フリーランスが法人設立する4つのデメリット
フリーランスが法人設立することで、さまざまなメリットがありますが、デメリットについても理解しておいたほうがいいでしょう。
ここでは、法人設立にはどのようなデメリットがあるのか、詳しく解説します。
設立費用がかかる
フリーランスとして活動をはじめる際、とくに開業費用などは必要なく、自己資金がなくても事業をはじめられます。
さらに、売上や所得がない場合は、課税対象とはならないので、税負担も必要ありません。
しかし、法人を設立する場合、法人の形態によって金額が異なるものの、法人設立費用が必要です。
設立する法人 | 設立費用 |
株式会社 | 約25万円~ ※最低20万円あれば開業できます。 |
合同会社 | 約10万円~ |
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登記可能な住所が必要
法人の設立登記では、法人の所在地が必要なので、登録可能な住所を用意しなければなりません。自宅を住所にすることも可能ですが、賃貸物件の場合、事業用として認められていないケースもあるので注意が必要です。
また、新たに事務所を用意する場合は、敷金・礼金などの初期費用に加え、家賃の負担も念頭に置いておかなければなりません。
自由にお金を使えなくなる
フリーランスが法人設立すると、これまで通り売上を自由に使えなくなってしまいます。というのも、法人の場合、役員報酬を決定しなければならず、役員報酬が個人の給料となることから、その範囲でやりくりしなければならないのです。
なお、役員報酬は事業開始から3か月以内であれば、一度だけ変更が可能であることに加え、期首から3か月以内でも変更できます。
赤字でも法人税を支払わなければならない
法人化すると、たとえ赤字であったとしても、法人税を納税しなければならず、法人住民税の均等割りである7万円を毎年納める必要があります。
この均等割りは最低額が7万円であることから、売上が0円であったり、赤字であったとしても、支払い義務は生じてしまいます。
フリーランスが法人設立するベストなタイミングとは
法人設立するタイミングについては、それぞれの人生設計によって変わるでしょう。いろいろなパターンを知って、自身のベストな法人設立のタイミングを検討することが大切です。
フリーランスが法人設立する最適なタイミング【お金】
フリーランスが法人設立する最適なタイミングをお金の流れを中心に見ていきましょう。
- 課税所得が800万円を超えたとき
- 売上高が1,000万円を超えたとき
課税所得が800万円を超えたとき
課税所得が800万円を超える可能性があるフリーランスは、法人化を検討したほうがいいでしょう。フリーランスは確定申告後に、所得額に応じた所得税を納めなければなりません。
しかし、所得税は累進課税方式が採用されており、課税所得が900万円以下の場合は23%、900万円を超えると33%と課税率がどんどん上がっていくことから、所得が多いフリーランスは納税額が高くなってしまうのです。
さらに、個人の所得として、住民税を支払う必要があることから、合計税率は900万以下の場合で約33%、900万を超えると約43%となります。
※出典 : 国税庁 / No.2260 所得税の税率
一方、法人化した場合は、納める税金が法人税・住民税・事業税に変わります。これらの合算税率は次のように分類されます。
- 400万円まで : 約22%
- 400万~800万円まで : 約25%
- 800万円以上 : 約35%
課税所得が800万円の場合、フリーランスは33%、法人は25%であることから、税率が約8%も差があります。
できるだけ納税がを抑えたい場合は、課税所得が800万円になるかどうかのタイミングで、法人設立をけんとうするといいでしょう。
フリーランスが法人設立する最適なタイミング【家庭】
次に、フリーランスが法人設立する最適なタイミングについて、家庭を軸に見ていきましょう。
- 家族が増えたとき
- マイホームの購入を検討しているとき
家族が増えたとき
フリーランスの場合、国民年金および国民健康保険に加入しなければならず、国民健康保険には扶養という概念がないことから世帯全員分の保険料を支払わなければなりません。そのため、4人家族の場合、4人分の保険料がかかってしまい、保険料の負担が大きくなってしまうのです。
しかし、法人を設立し、社会保険に加入すれば、扶養制度を利用できるので、保険料負担を抑えられます。
そのため、家族が増えたときは、扶養制度を利用できる法人のほうが保険料を抑えられるといったメリットがあるので、法人設立を検討したほうがいいでしょう。
マイホームの購入を検討しているとき
マイホームを購入する際は、住宅ローンを利用するのが一般的です。しかし、住宅ローンの審査は非常にハードルが高く、とくにフリーランスや個人事業主の場合は、会社員よりも審査に通らないケースが多いでしょう。
しかし、法人であれば、自営業者ではなく、会社経営者・役員となり、給料制になることから、待遇としては会社員とほとんど同じ扱いになります。そのため、金融機関によっては、フリーランスよりも審査ハードルが低くなり、住宅ローン審査に通りやすいといったメリットがあります。
フリーランスが法人設立する最適なタイミング【挑戦】
法人設立する際【挑戦】したい思いを中心に最適なタイミングを解説します。
- 法人として事業を展開したいとき
- 銀行から融資を受けて事業拡大したいとき
法人として事業を展開したいとき
フリーランスではなく、法人のみを対象にした案件もあることから、法人として事業を展開したいときは、法人設立を積極的に検討しましょう。また、フリーランスから法人化するときは、設立費用がかかることから、本腰をいれて事業を運営したいという方も、法人設立を検討することをおすすめします。
銀行から融資を受けて事業拡大したいとき
銀行から融資を受けて、事業を拡大させたいときは、法人化の検討をおすすめします。
金融機関によっては、法人を対象にした融資制度や商品を用意しているので、資金調達の選択肢が増えます。
さらに、フリーランスよりも法人のほうが審査ハードルが低いケースがあるので、融資を受けてビジネス展開したいなら法人設立がおすすめです。
フリーランスが法人設立する流れ
ここでは、フリーランスが法人を設立する流れを見ていきましょう。
設立手続き
法人を設立するにはまず定款を作成します。定款は設立する法人の基本的なルールを定めたもので、会社名や事業内容、資本金などを記載します。
株式会社を設立する場合、定款が作成できたら定款認証手続きが必要です。公証役場で公証人に認証してもらいますが、合同会社設立の場合は不要です。
登記の申請
定款の認証手続きが完了したら、法務局に法人設立登記の申請をします。法人設立登記の申請は、申請書に会社名や本店所在地、資本金の額を記載し、登録免許税分の収入印紙を貼ります。
法人設立登記申請書を作成して法務局に申請するには、会社法や商業登記法などの法律の専門知識が必要になるため司法書士に依頼するのが安心です。株式会社の設立に係る司法書士の報酬相場は7万円~10万円程度です。
とはいえ、昨今は自分で登記をスムーズにおこなうためのサポートをしてくれるサービスもあるので、そういったサービスを活用すれば、司法書士費用を抑えられます。
役員報酬の設定
法人設立登記が完了したら、取締役や監査役などに支払う役員報酬額を決めましょう。
役員報酬が次の3つのうちどれかに該当する場合は経費として計上できます。
- 定期同額給与(毎月決まった金額を給与として支払う)
- 事前確定届出給与(賞与のこと。あらかじめ税務署に届け出ると経費に計上できる)
- 利益連動給与
履歴事項全部証明書と印鑑証明書の取得
法人を設立すると、履歴事項全部証明書に情報が記載され、誰でも取得・閲覧できるようになります。
履歴事項全部証明書は、別名を登記簿謄本と称されることもあります。
履歴事項全部証明書は、法人口座開設時や法人クレジットカード作成、法人保険加入の際に提出を求められることも多いので、数枚取得しておきましょう。また、法人の印鑑証明も、同様に提出を求めらることがあるため、数枚取得しておくことをおすすめします。
履歴事項全部証明書は、法務局の窓口から交付請求をすることで取得できます。請求する場合は、必要事項を記載した上で法務局の窓口に提出する必要があります。
そのほか、交付申請書をダウンロードして法務局へ郵送する方法や、オンラインから請求する方法もあります。
なお、印鑑証明書を取得する場合は、法務局の窓口にて交付請求するか、オンラインから交付請求ができます。ただし、オンラインから申請をおこなう場合は、電子証明が必要なので事前に準備しておかなければなりません。
法人口座をつくる
法人を設立したら、銀行の法人口座を開設することが望ましいです。
しかし、法人口座の開設は審査が厳しく、金融機関によってはすぐに開設できないことも珍しくありません。
法人口座の開設には、会社の商業登記簿謄本や定款、会社の運営実態がわかる資料などが必要です。
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税務署へ届け出
法人設立後は、税務署に以下の書類を届け出ます。
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
そのほか、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」や「棚卸資産の評価方法の届出書」などがあり、詳細は税理士に相談するのがおすすめです。
自治体へ届け出
法人設立が完了したら、市町村役場や都道府県税事務所にも必要書類を届出をおこないます。
というのも、法人は、国税のほかに各自治体(市町村や都道府県)に納める地方税が発生するのです。そのため、管轄税務署に加えて、自治体にも必要書類を提出しなければなりません。
なお、提出期限や添付書類は各自治体によって多少異なるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
社会保険の手続き
税務署や自治体への届け出が完了したら、年金事務所にて社会保険関係の手続きをおこないます。
- 新規適用届
- 被保険者資格取得届
法人の役員は社会保険の適応対象となるので、新規で法人設立した場合は、新規適用届や被保険者資格取得届を管轄の社会保険事務所に提出する必要があります。
個人事業主廃業届の提出
これまでフリーランスとして活動しており、個人事業主として開業届を提出していた場合は、税務署に個人事業主の廃業届を提出しなければなりません。
まとめ
フリーランスとして活動しており、そろそろ法人化を検討している方も多いでしょう。
しかし、本当に法人化するべきなのか、法人化することでどのようなメリット、デメリットがあるのか気になる方も多いのではないでしょうか。
フリーランスが法人化することで、社会保険の適応対象となることから、家族の所得によっては扶養制度を利用できるので、国民健康保険よりも保険料を抑えられる可能性があります。そのほか、法人保険などを活用することで、当該年度の節税効果を期待できるしょう。
2023年10月からはインボイス制度がはじまるため、法人化を検討しているフリーランスもいるでしょう。
社会保険や年金、節税対策に加え、生活や事業運営のビジョンなど、複合的な視点から法人化を検討することが大切です。
監修者情報
合同会社Fikatid 代表
岡本 修
2022年に合同会社Fikatidを設立し、SEOライティングや編集、Webサイト作成や名刺デザインに加え、SNS運用代行などのサービスを展開するかたわら、フリーランスや一人社長の開業・創業時のトータルサポートに励む。
一人社長やフリーランスが抱える悩みを解決するためのメディア「一人社長とフリーランスの虎の巻」では、経験に基づく、銀行口座開設や融資、資金繰りや保険などを詳しく発信。
(※一部顧問税理士および社会保険労務士による監修)
合同会社Fikatid:https://fikatid.com/