法人口座は審査が厳しいといわれており、口座開設までに時間がかかることが多く、法人口座の必要性がわからなければ口座開設の申込しない方もいるでしょう。
そこで、本記事では一人社長が法人口座を開設すべき理由や手順、必要書類をご紹介します。さらに、金融機関の選び方や注意すべきポイントも併せて見ていきましょう。
ココがポイント
一人社長は早いタイミングで法人の銀行口座をつくったほうがいい
一人社長が法人の銀行口座を開設するときは履歴事項全部証明書などの書類が必要
ネット銀行の法人口座は審査ハードルが低い
一人社長は銀行口座を開設しなければならない?
法人を設立したからといって、必ずしも法人口座を開設しなければならないわけではなく、個人口座を代用している方もいるでしょう。しかし、会社を設立したら、個人用と事業用のお金の動きを分けるために、法人口座を開設するのが一般的です。
そもそも、法人口座とは会社名義の口座であり、〇〇〇株式会社 代表取締役 〇〇〇 といったように、会社名の後に代表者の役職と名前がつづくことが一般的です。なお、個人事業主も屋号付きの口座を作ることが可能ですが、個人事業主が開設できる口座はあくまでも個人口座の部類となり、法人口座ではありません。
法人口座は、法人が所有している口座であることから、個人資産とはっきりと切り離すことができ、健全な事業運営をおこなうために必要不可欠といえるでしょう。
とはいえ、法人口座の必要性がわからず、個人口座をそのまま使用している方も多いのではないでしょうか。たしかに、個人口座を使用すること自体は、法的に問題はないものの、個人口座を事業用に使っているとさまざまなリスクが生じやすいです。
資産管理や経費計算などの処理に手間がかかってしまうことに加え、税務調査のときに指摘されるケースもあることから、経営に支障をきたしかねないので、個人口座を使用するのではなく、早い段階で法人口座は開設したほうがいいでしょう。
一人社長が銀行口座を開設しなければならない5つの理由
一人社長であっても、健全な経営をおこなうために、銀行口座を開設したほうがいいでしょう。
- 個人資産と分けて管理するため
- 銀行や公庫から融資を受けるときに必要なため
- 法人クレジットカードの引き落としに利用するため
- 取引先から信用を得やすいため
- 税務調査に対応するため
1.個人資産と分けて管理するため
法人口座を開設しておけば、個人資産と別に法人資産を管理できます。事業用口座と兼用している場合、どちらの収支かを確認しなければならないほか、確定申告などの際に仕分けする項目が増え、余計な手間がかかってしまいます。
また、個人資産と法人資産との区別がつきにくくなり、どの範囲が法人の売上や支出かを把握できなくなってしまうことから、資金管理が難しくなるリスクがあるでしょう。
2.銀行や公庫から融資を受けるときに必要なため
法人登記をした会社が、銀行から融資を受けたり、金融機関のビジネスローン を組んだりするには、法人口座の開設が融資の条件となっている場合があります。
たとえば、GMOあおぞらネット銀行のビジネスローンを利用して融資を受ける場合は、ビジネスローン申込時に法人口座を開設するようになっています。
また、日本政策金融公庫の融資制度を利用する場合にも、法人口座が必要です。
(日本政策金融公庫の担当者に確認済 2023年5月8日時点)
事業運営に必要な融資を受けたり、ビジネスローンを利用したりするときは、ほとんどのケースで法人口座が必要となります。
法人口座の開設には約2~4週間の時間がかかってしまうので、急に融資が必要になったとしても法人口座がなければ、その分、融資実行までに時間がかかってしまうのです。そのため、あらかじめ口座開設をしておくことをおすすめします。
3.法人クレジットカードの引き落としに利用するため
法人クレジットカードを使って、経費の決済をしようと考えている方も多いでしょう。しかし、法人クレジットカードを利用するときは、法人口座が必要なことも珍しくありません。
個人用のクレジットカードを事業用として使用していると、個人と法人の利用の区別ができないことから、税務調査時に指摘される可能性が高いです。また、法人用クレジットカードを作成し、経費を決済すれば、経費計上漏れを防げることに加え、明細管理を完結にできるといったメリットがあります。
法人クレジットカードでは、基本的に法人口座が必要となるので、クレジットカードでの経費決済を検討している方は、法人口座も併せてつくりましょう。
4.取引先から信用を得やすいため
取引先から信用を得るためにも、法人口座を開設することをおすすめします。一人社長であっても、法人登記をすれば個人とは別人格と見なされます。
人口座しか保有していない場合、不正などを理由に法人口座を作れないと取引先から不審に思われる可能性があり、継続した取引ができないことも考えられます。
しかし、法人口座があれば、個人の財産と区別して管理していることになり、経営が適切におこなわれていると判断されやすいでしょう。
5.税務調査に対応するため
税務調査とは、納税者から申告された内容が正しいかどうか税務署が調査することです。法人口座があると、会社の入出金管理ができるので、税務調査に対応しやすくなります。
法人口座を開設していれば、売り上げや経費に使ったお金の流れなどが一目でわかります。しかし、個人資産が混ざっている場合、事業で得た利益と明確に区別されていないと見なされ、脱税を疑われる可能性も少なくありません。
また、私的に利用したお金の情報が知られるので、個人資産をどのようなものに使用しているかを知られてしまうといったデメリットがあります。
そのため、法人設立したときは、できるだけ早い段階から法人口座が必要といえるでしょう。
一人社長が銀行口座を開設する方法と開設にかかるスケジュール
法人口座は、会社を設立し、履歴事項全部証明書(通称:登記簿)を取得してから開設の申込をおこないます。
開設までにかかる時間は、金融機関によって異なるものの、ネット銀行であれば、申し込みの翌営業日には開設されます 。しかし、メガバンクや地方銀行の場合、申し込みから約2~4週間かかることも少なくありません。
具体的な手順は以下の通りです。
- 必要書類を用意
- 口座開設の申し込み
- 約2~4週間の審査
- 口座開設の手続き
審査には時間がかかることがあるので、余裕を持って申し込むといいでしょう。
一人社長が銀行口座開設時に必要な5つの書類
一人社長が銀行口座の開設に必要な書類は、主に5点あります。
- 履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)
- 会社の運営実態がわかる資料(請求書や契約書など ※取引先名が記載されているもの)
- 定款
- 印鑑登録証明書(法人)
- 本人確認資料(代表者の本人確認資料)
法人口座開設に必要な書類は金融機関によって異なります。 ホームページなどで事前に確認し、あらかじめ必要書類を用意しておくといいでしょう。
なお、履歴事項全部証明書はほとんどのケースで必要になるので、数枚取得しておくことをおすすめします。
1.履歴事項全部証明書 (商業登記簿謄本)
商業登記簿謄本(しょうぎょうとうきぼとうほん)とは、会社の名前や所在地などが記された登記簿を法務局がコピーし、紙で保存されたものであり、履歴事項全部証明書とは、法人登記の履歴がすべて記載された登記簿を指します。
両者は名称が異なりますが、証明できる内容や効力は同じであり、証明書を取得するには、法務局の窓口で申請するか、オンラインで請求する方法があります。
2.会社の運営実態がわかる資料
法人口座を開設するには、登記事項全部証明書に加え、会社の運営実態がわかる資料を提出しなければならないことが一般的です。
金融機関は、銀行口座を犯罪目的で使用されるのを防ぐために、法人口座については、事業の実態があるのかを厳しくチェックしています。
とはいえ、設立間もない法人の場合、ほかの企業との取引実績がほとんどないことも少なくありません。
そのため、事業内容を確認できる書類として、ホームページのコピーや事業計画書のほか、事務所の賃貸借契約書のコピーなどの提出を求められることがあります。
3.定款
定款(ていかん)とは、会社名や事業目的、規則などを記した書類です。会社を設立する際に、必ず発起人全員で作成します。
一般的には、定款のコピーがあれば、受理していただけますが、金融機関によっては定款のコピーと原本の内容と変わらないことを証明する「原本証明」を求められるケースもあります。
原本証明の書き方
証明文および証明年月日を印刷し、証明者が記名、押印します。
また、住所や会社名、役職や代表者名の部分は、直筆でなく、ゴム印で代用しても基本的には問題ありません。
ただし、金融機関によっては、自署を求められる可能性もあることを留意しておきましょう。
【作成方法の一例】
- 定款をA4サイズで白黒コピー
- 左側2か所をホチキスとめ
- すべての綴じ目に会社の代表者印で契印をします
- 最後のページの余白や裏面に以下の原本証明の記載
【定款の原本証明の書き方】
上記定款は原本と相違ないことを証明します。
令和〇年〇月〇日
広島県広島市〇〇区〇〇1-1-1
株式会社〇〇〇〇〇
代表取締役 〇〇〇〇 (印)
4.印鑑証明書
法人の印鑑証明書とは、会社の正式な印鑑だと証明するための書類です。
発行するには、法務局で所定の申請書と一緒に印鑑カードを提出 します。なお、法務局によっては、印鑑カードがあれば自動手続き機を使用することができ、申請書の提出を省けます。
そのほか、電子証明書を取得している場合は、法務局の窓口に出向かなくても、郵便やインターネットから印鑑証明書の交付申請が可能です。
5.本人確認書類
法人口座の開設は、代表者がおこなわなければならないのが一般的であり、代表者自身の運転免許証などの本人確認書類が必要となります。
そのほか、以下の確認資料でも対応してもらえることがあります。
- パスポート(旅券)
- 個人番号カード(マイナンバーカード)
金融機関によって認められる本人確認書類は異なるので、事前にどのような書類が必要か確認しておきましょう。
一人社長はどこの銀行で口座をつくればいい?
一人社長が法人口座をつくる選択肢として挙げられるのは、以下の金融機関です。
- メガバンク
- 地方銀行
- 信用金庫
- ネット銀行
それぞれに違った特徴やメリット・デメリットがあります。自身の事業に合った口座を開設したい方には、有益な内容です。
信用を得るならメガバンク
メガバンクは全国に支店があり、知名度が高いことから、ブランド力があり、メガバンクで法人口座を開設したいと思う方も多いのではないでしょうか。
メガバンクの法人口座は、口座開設のハードルが高く、メガバンクの口座を保有していると一定の信用を得られるメリットがあります。とはいえ、地方銀行や信用金庫と比べると融資を受けるのが難しいことに加え、口座を維持するための月額料金や振込手数料が高額な場合があるので、利用するかどうかをじっくり検討しましょう。
経営、融資相談するなら地方銀行
経営や融資の相談をしたいなら、メガバンクよりも親身になって相談になってくれることが多い地方銀行で法人口座を開設するのがいいでしょう。
なお、地方銀行は店舗のある地域のお金の流れを熟知しており、一部地域では信用力があることから、地元の企業との取引が多い場合は地方銀行で法人口座の開設を検討するのをおすすめします。
メガバンクや地方銀行で口座開設できないときは信用金庫
信用金庫は、法人口座を開設しやすいといわれていることから、メガバンクや地方銀行の法人口座開設の審査に通らなかったときは、信用金庫の法人口座を検討しましょう。
信用金庫は会員や地域社会の利益を重視しているので、創業時であっても融資を受けられる可能性が高いです。ただし、従業員が300人以上、または資本金が9億円を超える場合は会員になることができません。
振り込み回数が多いならネット銀行
振込回数が多い場合は、振込手数料が安いネット銀行が適しています。インターネットから24時間365日いつでも手続きがおこなえるため、利便性は高いのが特徴です。
また、口座維持手数料がかからない銀行が多く、預金金利が高いのもメリットといえるでしょう。ただし、メガバンクや地方銀行と比べると、信用度が低いといわれています。
とはいえ、「信用度」を証明することは非常に難しく、実際、多くのベンチャー企業やIT企業がネット銀行を利用していることから、ネット銀行がますます普及し、「信用度」が高くなることが予想されます。
なお、地方銀行や信用金庫の法人口座の開設を断られた場合、まずはネット銀行で口座を開設し、事業実績をつくってから、地方銀行やメガバンクで法人口座を開設しましょう。
一人社長が銀行口座をつくるときの3つの注意点
一人社長が銀行口座を開設する際、注意しておきたいポイントがあります。ここでは、3つの注意点を詳しく見ていきましょう。
- 銀行口座を開設する目的を明確にする
- 事業内容を説明できるようにしておく
- バーチャルオフィスは法人口座の開設を断られる可能性がある
3つの注意ポイントを理解しておかなければ、口座開設の審査に落ちて、法人口座を開設できない可能性があります。そのため、事前に注意すべきポイントを把握し、しっかりと対策しておきましょう。
1.銀行口座を開設する目的を明確にする
法人口座を開設するときは、なぜ法人口座が必要なのか、開設理由や目的をはっきりさせておく必要があります。
近年、麻薬取引などの犯罪で得た利益の出所や所有者を分からなくさせるマネ―・ローンダリングが多発しています。平成25年4月1日に「犯罪収益移転防止法」が改定され、取引目的を確認するようになりました。不備のない公的書類を用意し、犯罪目的ではないと銀行側に判断されなければ、口座開設を断られることがあります。
なお、法人口座を開設する主な理由としては、「事業決済用として使用したい」「取引先からの入金および外注先への支払いに利用したい」など、簡単な理由や目的で問題ありません。
2.事業内容を説明できるようにしておく
法人口座を開設するときに、会社の事業内容を聞かれます。その際、どのような事業内容か、そして自身はどのような業務をおこなっているかを説明できるようにしておきましょう。
銀行は、マネー・ローンダリングなどの犯罪目的で利用されることを懸念しています。法人口座は。不正に悪用されることがあるので、平成24年3月、警察庁生安局が法人口座を開設する際の審査を厳しくするよう金融機関に要請しています。
とはいえ、事業内容が健全で明瞭であれば、口座開設の審査に通りやすくなるので、事業内容の資料を持参し、担当者にしっかりと説明しましょう。
3.バーチャルオフィスは法人銀行口座の開設を断られる
法人設立当初は資金に余裕がなく、事務所を借りるのが難しいことから、比較的低予算で利用できるバーチャルオフィスを借りる方もいるでしょう。
しかし、バーチャルオフィスの場合、住所だけを借りているだけで、該当の住所で事業をおこなっているわけではないことから、警戒する金融機関もあり、法人口座を開設できないことも少なくありません。また、金融機関から転送不要の郵便物が届くことがあり、バーチャルオフィスによっては受け取りできないこともあるので、注意が必要です。
なお、事業の健全性や実績などをしっかりとアピールできれば、バーチャルオフィスやレンタルオフィスでも法人口座開設の審査に通る可能性はあります。
一人社長が銀行口座開設の審査に落ちたらどうする?
一人社長が銀行口座を開設できなかったときは、一定の間のみ個人口座で代用することができます。ただし、個人資産と法人資産をしっかりと区別するために、プライベートで使用していない個人口座を使いましょう。
とはいえ、個人口座を永続的に使用するのは、健全に会社を経営していくうえでもリスクになってしまう可能性があります、そのため、法人登記後、1~2か月程度の実績ができた段階で法人口座の開設を申込みましょう。
なお、ネット銀行であれば、審査ハードルが低いので、条件に満たしていれば法人口座を開設できるでしょう。
まとめ|一人社長は法人の銀行口座をつくったほうがいい
フリーランスから法人成りした場合や、創業時から法人登記している一人社長の場合、法人口座をつくったほうがいいか疑問に思われている方もいるでしょう。
法人口座は、銀行や日本政策金融公庫から融資を受けるときのほか、法人クレジットカードを利用するときに必要です。また、取引先から入金してもらう口座としても利用することから、できるだけ早いタイミングで法人口座を開設しなければなりません。
とはいえ、個人口座とは異なり、法人口座の開設は審査ハードルが高く、条件によっては口座をつくれないことも珍しくありません。ただ、ネット銀行であれば、比較的審査ハードルが低いことから、事業実績が少ない法人であっても、口座を開設できることがあります。
監修者情報
合同会社Fikatid 代表
岡本 修
大学院博士課程にて国際関係学を学び、自動車部品メーカーにて海外事業に従事。その後、大手電機メーカーにて外注交渉や調達業務を担当する。退職後はフリーランスWebライター・編集者・Webエンジニアとして活動。
2022年に合同会社Fikatidを設立し、SEOライティングや編集、Webサイト作成や名刺デザインに加え、SNS運用代行などのサービスを展開するかたわら、フリーランスや一人社長の開業・創業時のトータルサポートに励む。
一人社長やフリーランスが抱える悩みを解決するためのメディア「一人社長とフリーランスの虎の巻」では、経験に基づく、銀行口座開設や融資、資金繰りや保険などを詳しく発信。
(※一部顧問税理士および社会保険労務士による監修)
合同会社Fikatid:https://fikatid.com/
※2023年6月28日時点の情報